医師の現状
医師不足と労働環境の厳しさが指摘されている。少子高齢化や臨床研修の義務化など、医師を取り巻く環境はここ数年で変わってきた。
医師不足と医師の偏在
経済協力開発機構(OECD)がまとめた「ヘルスデータ2008」によると、日本の人口千人あたりの医師数は2.1人(2006年)で、OECD加盟の30カ国中26位。OECD平均の3.1人を大きく下回っている。主要7カ国ではカナダと並んで最下位。
1975年前後、一県一医大の構想と私立新設医学部の急増により、医学部入学定員が大幅に増やされて、医師過剰が危惧された。そこで文部省(当時)は新規の医師を10%程度抑制することを目標とした。その結果、入学定員を2006年度までに7%強減らした。また、2004年から始めった臨床研修の必修化(新医師臨床研修制度)が地方における医師不足の原因の一つとされている。これまで新卒医師の大半は大学病院の医局に在籍して専門診療科の研修を受けた後、関連病院に派遣された。派遣先は多くの場合、強い権限を持った教授が決定。なかば強制的にへき地に行かされることもあり、批判もあったが地域医療を支える側面もあった。
一方、厚生労働省が2006年に行った調査によると、全国の医師数は27万7,927人。1982年の16万7,952人から10万人以上も増えている。また、病院勤務医から開業医への移行が増えていることから、医師不足の実態を、医師の偏在(地域および診療科別)と勤務医不足とする指摘がある。
新医師臨床研修制度
特定の診療科しか知らない医師が増えたことなどへの反省から、2004年4月から新人医師に2年間の研修期間を必修化した。医師免許取得後に内科、外科、救急(麻酔科を含む)、小児科、産婦人科、精神科、地域保健・医療の7部門を2年かけて回る。このスーパーローテート方式は、幅広い能力を身に着付けることが目的。
新制度前、医師の臨床研修は「努力義務」で、研修医の身分や処遇も明確でなかったうえに、卒業後も出身大学の医局に残って診療や研究業務を下支えしていた。新制度では、新人医師は医局に属することもなく、研修先病院を自由に選択できるようになり、都市部や技術の高い民間病院に人気が集中し、多くの大学病院が医師不足に陥った。大学医局は手薄になり、各地の病院へ派遣していた医師を引き揚げざるをえなくなった。これにより、地方の医師不足が一気に加速した。
産科・産婦人科と小児科の不足
医師不足が指摘される中でも、産科・産婦人科や小児科など特定の診療科の医師不足が深刻化している。厚生労働省が2006年に行った調査では、全国の産科医の数は482人、産婦人科は9,592人で、合わせても医師総数の4%に満たない。同様に、小児科は1万4,700人で5.6%。専門医不足の主な原因として、(1)激務のうえ、開業医となった場合、少子化で病院経営が厳しいなどの理由で新人医師が敬遠 (2)出産をめぐる医療過誤訴訟の増加 (3)大人以上に手間がかかるにもかかわらず、小児科の診療報酬は内科に準ずる程度 (4)医師の高齢化が進み廃業する人が増加-- などが指摘されている。
過重労働
現在、医師の労働環境は非常に厳しいものである。日本医療労働組合連合会が2007年4月に発表した資料「勤務医の労働時間」によると、平均労働時間は1日あたり10.6時間、週あたり58.9時間、月あたりの時間外勤務は62.9時間。同年の厚生労働省の「医師の需給に関する検討会」第12回配付資料によると、医師の労働時間は平均で週に63.3時間。30.9%の医師は、過労死ラインである週80時間以上の勤務をしている。この間の休憩時間もあまり取れない医師が54.7%と半数を超えており、22.4%の医師はまったく取れないという。そこで睡眠不足・過労による医療事故が懸念されている他、医師の過労死が問題となっている。